初夏の思い出[かたっぽなくしたてぶくろ]
2009.07.22 Wed先月、井荻の区民センターで
「Kabutomushi」の稽古をしていたとき
吹上タツヒロさんが娘さん(4歳か5歳?)を
稽古場へ連れて来られた日があった。
とっても利発でかわいらしい娘さんだった。
おとうさんが稽古中のとき、空いている者が
娘ちゃんと一緒にいた。
最初、新谷(真弓)さんや(信川)清順さんが
面倒を見ていたが新谷さんたちが稽古のときは
私がその役を担うことになった。
区民センターに隣接している公園に行った。
小さな男の子が、公園に設置されている水道の蛇口から
むやみやたらに水を出して遊んでいた。
するとそれを見た娘ちゃんが
「水はそんな風に使うものじゃないよ」
と呟き怒っている。そして
「ねぇ、水はどうしてあるのか知ってる?」
と聞いてきた。彼女がどんな風に答えるかが気になったので
「うぅん。そうだね、水はどうしてあるの?」
と尋ねてみた。
「(大きいのに)そんなことも知らないの。
水はね、お洗濯に使ったり、
お料理に使ったりするものなんだよ。
あんな風に無駄にしちゃだめなの」
おみそれしました。
しばらく砂場の近くにいると、
「かゆぃぃ」とボリボリ足や腕を掻き始めた。
よく見ると、ぎょっとするくらい
彼女はいっぱい蚊に刺されてしまっていた。
私は痒み止めの薬を持っていなかった。
しかし区民センターを離れて
痒み止めを買いに行く時間はその時とれなかった。
でも傷ができそうなくらい容赦なく自分の身体を掻くので、
このまま放ってもおけない。
公園を見回すと、ベンチに
二人の子供と一緒に座っているおかあさんがいた。
知らない人に話しかけることは普段滅多にないことだが
そのときは痒みを何とかしてあげたいと思う勢いで
話しかけていた。
「すみません、あの、痒み止めを
何かお持ちではないでしょうか。
たくさん、刺されてしまったみたいで」
「あらーほんと。
でも痒み止め、今日持ってないわ。ごめんなさい。
あ、けどね、痒み止めを持ってないとき、
ドクダミの葉を使うおかあさんがいるわよ」
ドクダミの葉、ですか。
「ドクダミの葉をもんで、
それを痒いところにこすりつけるの」
なんと、そんな方法があるんですね。
でもドクダミの葉がわからなくて…
「探してくるわ。きっとあるから」
二人の子供に、きみたちはちょっと待っててね、
ここ(ベンチ)から離れちゃだめよ
と言い聞かせて、おかあさんは風のように
植物の沢山生えているところへ行き
ドクダミの葉を取って帰ってきてくださった。
私はそのおかあさんの爽やかな笑顔と、優しさと、
行動力にしばし見とれてしまった。
ありがとうございますと丁重にお礼を言って
娘ちゃんと一緒にドクダミの葉をもんで
娘ちゃんの腕や足にこすりつけてみた。
しかし
こすりつけた直後は少しやわらいだようだったが
やはり再び「かゆぃぃ」と掻き始めた。
こまった…
そんなとき公園の隣のおうちから、
おばさんが出かけようとしているのを見つけ
逡巡する間なく私はまた勢いで話しかけていた。
「すみません、ムヒか何かお持ちではないでしょうか。
この子が、いっぱい刺されてしまいまして」
「あらあらほんと。
(娘ちゃんの体を見て)それは痒そうねぇ。
うーん、ムヒはないけど、ちょっと待っててね」
おばさんは家の中へ戻り、
小さなチューブに入った痒み止めを持って来てくださった。
そして一緒に娘ちゃんの体に塗ってくださった。
「孫が遊びに来たときのために、買ってあったの。
この隣の公園は蚊がたくさんいますからね。
今度遊ぶときは、虫除けスプレーして行きなさいね」
いきなり話しかけかなり迷惑なお願いをしていたと思うが
おばさんが本当に優しくて親切な方だったので助かった。
薬のおかげで、その後痒みはおさまった。
おかあさんも、おばさんも、無条件に助けてくれた。
本当にありがたくて忘れられない出来事だった。